「あれ、なんだかお母さん、様子が変かも…」
実家に帰ったとき、電話で話したとき、そんな違和感を感じていませんか。
私は50代の現役看護師です。病棟で何十人もの認知症の患者さんを見てきました。初期症状のチェックリストも、対応の仕方も、頭では分かっているつもりでした。
それでも——自分の母のことになった途端、何もかも分からなくなりました。
認めたくない気持ち、見て見ぬふりをしてしまう日々。看護師の私ですらそうでした。もしあなたが今、「まさかうちの親に限って」と思いながら、どこか胸がざわついているなら——この記事は、そんなあなたに書きました。
母が認知症と診断されるまでに私が気づいた9つのサイン、受診を嫌がる親への魔法のひと言、診断後の介護開始までの具体的な手順を、看護師と娘の両方の視点からお伝えします。
結論:「おかしいかも」は受診のサイン、ためらわず行こう
先に結論をお伝えします。
親に対して「なんかおかしい」と1回でも思ったら、それはもう立派な受診のサインです。「気のせいかも」「歳だから仕方ないかも」と様子を見ている数ヶ月の間に、認知症は静かに進みます。
認知症の薬は、初期に始めるほど進行を遅らせる効果が高いことが分かっています。看護師として断言しますが、「早すぎる受診」はありません。
受診先は、物忘れ外来または精神科です。最近は高齢者が多い病院なら、だいたいどこでも物忘れ外来を開設しています。
【看護師が見た】母の認知症・初期サイン9つ
実際に私の母に現れた、認知症の初期サインを9つ整理しました。ひとつひとつは「ちょっとしたこと」に見えますが、いくつか重なったら要注意です。
① 同じことを10分もしないうちに何度も聞く
加齢による物忘れと、認知症の物忘れは違います。境目は「聞いた直後に忘れるかどうか」。10分前に話したことをもう一度聞いてくる、それが何度も繰り返される——これは明確なサインです。
② ゴミを出す日・種類を間違えるようになった
これまで当たり前にできていたルーティンができなくなるのも初期サイン。曜日の感覚、分別ルール、段取りが崩れてきます。
③ カレンダーに書いた予定を忘れる
「書いてあるのに忘れる」は、「書いた」という事実そのものが記憶に残っていないサイン。カレンダーを見ても自分の字だと認識できないこともあります。
④ 家事の段取りができなくなる・献立が決められない
料理は、複数の作業を並行して進める高度な認知機能を使います。「今日何作る?」と聞かれて固まる、煮物と炒め物のタイミングを合わせられない、調味料の量を間違える——こうした変化は要注意。
⑤ 薬の管理ができなくなる(飲まずに捨てている)
一包化された薬のシートが大量に残っている、もしくはゴミ箱に未開封の薬が捨てられている。「飲んだ」と言うのに実際は飲んでいない——これは放置すると命に関わる変化です。
⑥ 定位置に物を片付けられなくなる
「くつしたとズボンが一緒にタンスに入っている」「リモコンが冷蔵庫の中にある」など、物の分類ができなくなるのもサイン。「ない!」と探し回る時間が増えます。
⑦ 興味のなかったテレビ番組をぼんやり見ている
これは意外と見落としがちなサイン。ルールも分からないスポーツ中継をじっと見ている、内容を理解していないドラマを流しっぱなしにしている——「能動的な興味」が薄れてきた証拠です。
⑧ 表情がぼんやり・無表情になることが増えた
笑顔や驚きの反応が減り、感情の起伏が乏しくなる。「なんだか元気がない?」と感じたら、うつ症状だけでなく認知症の初期も疑ってみてください。
⑨ 話を合わせてその場をごまかす(取り繕い反応)
これは認知症の初期に特徴的な「取り繕い反応」と呼ばれる行動です。分からない質問に対して、当たり障りのない返事で切り抜ける。「そうね、そうだったね」「はいはい」と曖昧に相槌を打つ——これが増えたら、かなり明確なサインです。
うちの母は、9つのサインのうち7つに当てはまっていました。振り返れば、もっと早く気づけたはず、と今でも思います。
受診を嫌がる親への魔法のひと言「頭の健康診断」
ここが一番のハードル、「どうやって受診に連れて行くか」問題。
「精神科に行こう」と言うと、多くの親世代は身構えます。「私は病気じゃない」「頭がおかしいって言うの?」と怒り出すことも。看護師としても、娘としても、何度もぶつかってきた壁です。
そんなときに私が精神科外来の臨床心理士さんから教えてもらった、魔法のひと言がこちら。
「頭の健康診断にいってみようよ〜」
「病気を疑われている」ではなく「健康を確認する」というフレーム転換。これだけで、驚くほどスムーズに受診できる方が多いんです。
私は看護師の仕事で、ご家族から認知症受診の相談を受けたときにも、必ずこの言葉を勧めています。体感ですが、9割以上のご家族が「これを言ったら連れて来れました」と報告してくれます。
私の母にも、同じ言葉で受診を提案しました。母は「あら、そういうのがあるの?じゃあ行ってみる」とすんなり同意。もし「精神科に行こう」と言っていたら、きっと半年は遅れていたと思います。
病院で行う検査と、診断までの流れ
物忘れ外来・精神科では、以下の流れで診断が進みます。
- 1. 問診(本人・家族それぞれに):生育歴、いつからどんな症状があるか。家族への聞き取りが非常に重要(本人は自覚していないことが多いため)
- 2. 認知機能テスト:「長谷川式簡易知能評価スケール」「MMSE」など。30点満点のテストで、客観的に認知機能を測定
- 3. 画像検査:CT・MRIで脳の萎縮や血管の状態を確認
- 4. 診断・治療方針の決定:認知症と診断された場合、薬の処方と並行してデイサービスなどの提案も
母の場合、記憶に関する点数が低く、頭部MRIでも記憶を司る海馬の領域に所見が認められました。そのため認知症の初期段階と診断され、薬が処方されました。
診断後、私がすぐに動いた3つのこと
診断を受けた帰り道、私は落ち込むよりもすぐに行動しました。「悲しむより、動こう」。病院を出てすぐに、以下の3つを並行してスタートしました。
① 区役所で介護認定の申請
病院の帰り道、そのまま区役所に寄りました。要介護認定を受けないと、介護保険サービス(デイサービス、ヘルパー、福祉用具レンタルなど)は一切使えません。申請からサービス開始まで約2ヶ月かかるので、とにかく早く動くのが正解です。
② 地域包括支援センターに電話
自宅から一番近い地域包括支援センターに電話。「親が認知症と診断されました」と伝えると、ケアマネージャーさんが自宅まで来てくれて、地域のサービス事業所を具体的に紹介してくれました。
③ 職場に「介護が始まった」と伝える
これ、けっこう大事。認定調査・ケアマネ面談・見学・サービス開始と、平日昼間に何度も休む必要が出てきます。
「親の介護が始まりました。今後急な休みが入るかもしれません」と早めに伝えておくと、職場の理解が得られやすく、後々の心理的負担も全然違います。介護休業・時短勤務など制度があるなら調べるだけでも安心材料になります。
介護認定の流れと、要介護1〜5の目安
「要介護1」「要支援2」など、数字の意味が分かりにくいですよね。一覧表にまとめました。
| 介護度 | 自立度の状態 | 具体的な支援内容 | 利用できるサービス |
|---|---|---|---|
| 要支援1 | 基本的に自立しているが、家事などの支援が必要 | 食事や排泄は自分でできるが、掃除ができない | 介護予防サービス |
| 要支援2 | 自立度がやや低下し、より多くの支援が必要 | 入浴時に背中を洗えないなど、部分的な介助が必要 | 介護予防サービス |
| 要介護1 | 日常生活の一部に介助が必要 | 排せつや入浴時に介助が必要 | 介護サービス |
| 要介護2 | 日常生活全般に部分的な介助が必要 | 立ち上がりや歩行が不安定 | 介護サービス |
| 要介護3 | 日常生活全般に全介助が必要 | 排せつ、入浴、着替えに全て介助が必要 | 介護サービス |
| 要介護4 | 自立した生活がほとんどできない | 食事や入浴など全てに介助が必要 | 介護サービス |
| 要介護5 | 完全に介護が必要な状態 | 寝たきりで全ての動作に介助が必要 | 介護サービス |
認知症の薬が処方されている状態なら、多くの場合「要介護1」以上の判定が出ます。
認定調査のときの注意点:「できないこと」を正直に伝える
自宅に認定調査員が来て、本人と家族から聞き取りをします。ここで大事なのが、本人が「なんでもできますよ!」と張り切って答えても、家族は遠慮なく「実際は違います」と訂正すること。
遠慮して本人に合わせると、実際より軽い認定になり、受けられるサービスが減ります。本人のプライドを傷つけないために、調査員には事前に「家族が別室で話す時間も取れますか」と頼んでおくのも手です。
デイサービスで「家族も自分の時間」を取り戻す
母は最初、デイサービスに通うのを嫌がりました。
「自分は元気なのに、なぜこんなところに通わないといけないの」「動けない人ばかりで、自分も病気になりそう」——強気な発言の連続。もともと介護の仕事をしていた人なので、「人の世話になる側」に回ることがプライドを傷つけていたのだと思います。
でも、デイサービスの職員さんはプロです。母が得意なこと(家事)を見つけて「お手伝いいただけますか?」と頼んでくれたり、他の利用者さんと話す機会を作ってくれたり。数週間で母は「今日はデイの日なんでしょ?行ってくる」と自発的に言うまでになりました。
そして何より、家族の私に「自分の時間」が戻ってきたのが大きい。デイに行っている間は、仕事に集中できる、買い物ができる、自分の庭の手入れができる。この自分時間があるからこそ、母と向き合う時間にも余裕が生まれます。
介護は、マラソンです。「頑張りすぎない」仕組みを最初に作っておくことが、結果的に親孝行になると実感しています。
まとめ|早期発見と、家族の時間を守ること
認知症は、残念ながら現在の医学では完治しません。でも「早く気づく」「進行を遅らせる」「家族の生活を守る」ことは必ずできます。
この記事のポイント
- 「おかしいかも」と思ったらすぐ受診(早すぎることはない)
- 初期サイン9項目のうち複数該当したら要注意
- 受診を嫌がる親には「頭の健康診断」の魔法のひと言
- 診断後は区役所・地域包括支援センター・職場に即動く
- 介護認定調査では「できないこと」を正直に伝える
- デイサービスは家族の自分時間を守る大切な仕組み
看護師として、娘として、そして同じ50代の誰かへ。あなたの違和感は、大切な親への愛情の証です。「気のせいかも」を信じず、今日、まず「頭の健康診断にいこう」と声をかけてみてください。
その一歩が、ご家族みんなのこれからを守ります🌿



